2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

闇夜(やみよる)21

ニコラスが死んだ次の日からキクリンは何度めかの登校拒否になった。たくさん尋ねたいこともあったので、陰毛はボーボーと繁っているくせにケータイを持っていないキクリンのアパートを何回か訪ねたけれどいつも留守だった。こないだ市内で暴れ回ってた変態…

闇夜(やみよる)20

全世界に向けて「北日本連邦」の正式な独立宣言をおこなうはずのテレビ放送は予告していたとおりの時間に始められた。時刻は午後12時ちょうど。それはちょうど前日に電波ジャックによる独立宣言がおこなわれたのと同時刻だった。 最初に画面へと映し出され…

闇夜(やみよる)19

ユイファは、今日が自分の40歳の誕生日であることに夕飯の支度をしながら気づいた。ふと、自分の半生を振り返る。日本に来てから20年、何もなかった。ただ我慢をするだけの味気のない日々だった。ユイファは深いため息を吐いた。最近は何もやる気がしないし…

闇夜(やみよる)18

快感にふやけるぐらいに浸りながら夕空に向け機関銃をババババババと乱射気味に威嚇射撃する私を携帯のバイブが邪魔をした。私は仕方なしに電話をとって液晶を見た。「非通知」 つまらない話だったら速攻切ろう。だって乱射したいんだもの。「もしもし…」無…

闇夜(やみよる)17

福島県桧枝岐村から日本の全土に向けて飛ばされた電波が止むと、お茶の間にはそれまで映っていた番組が戻ってきた――ある家庭ではCGで再現された森田一義の『笑っていいとも』が、ある家庭では何十年も前に体の一部を機械化することによって人間機械と化し…

闇夜(やみよる)16

「バットマン・マキシマム・ザ・ホルモン・フェノメノン!」 バットマンの腕から剛毛だかなんだかよくわからない針の弾丸がジョーカーと呼ばれたピエロ男に向かって発射される。 「殺った…!ウヒヒヒ。死ね死ね死ね死ね死ね死ね」 バットマンは突然、饒舌に…

闇夜(やみよる)15

「ないよ〜」しみてきた。「ライタンないよ〜」すげえしみてきた。「パパのメカニックライタンないよ〜」パパの騒々しい泣き声がキズにしみて痛くてしょうがないのでケガで学校を休んでいる私は今日の我が家が私にとって安息の場所ではないと知って脱出する…

闇夜(やみよる)14

「唐突にこんなことを言っても、戸惑ってしまうのは当然かもしれません」 運ばれてきたボルシチに手をつけないまま、オマンコーノフは続けた。 「あなた方の苦境は、存じ上げています――かつて豊かな農業地帯、米所と呼ばれた東北の地は、いまや例年厳しくな…

闇夜(やみよる)13

こいつを丸め込むのは簡単そうだ、こいつはただの素人だ。加持千草は考えていた。実際、羽鳥隆之はその「力を与えてくれる」マスク以外のことは何もしらないようだった。ますますわからない。こいつの力は本物だ。なぜバットマンを名乗る者は羽鳥に力を与え…

闇夜(やみよる)12

「エーステ!」 一瞬の沈黙に「…コ」「…コ」「…コ」のルフラン。私は声を聞いた。 鳥取駅北口ロータリーでの戦いを終わらせた私は原付バイクを走らせていた。預かった荷物はしっかりと担いでいる。霧雨。あのときと同じだ。声を聞いたときと。悪魔の声を聞い…

闇夜(やみよる)11

1年前まで深夜の墓場のように静まり返っていた釧路港は、海底から無尽蔵かと思われるほどの勢いでメタンハイドレートを汲み上げる巨大パイプ、マイクのおかげで蘇る。以前は燃料高騰の煽りをうけて代々続けられてきた蟹漁や美味しいカマボコなどの原料にな…

闇夜(やみよる)10

カンチこと加持千草は自転車をかっ飛ばす下校中も焦っていた。季節はすっかり初夏になろうとしているのに捜査には何の進展もない。入学してからというもの、加持は羽鳥隆之のうわさを学校でもネットでも吹聴して回った(第4話参照)。だが、このうわさは実は…

闇夜(やみよる)9

私にとって最悪の目覚めはいつもチャゲアスによってもたらされる。私の家には朝ゴハンのときにチャゲアスを流すという友達に絶対に知られたくない慣習があって数あるチャゲアスの曲のなかでも私は「SAY YES」が流れると頭痛というか頭のなかがじゅじゅじゅと…

闇夜(やみよる)8

25年。それよりちょっと前から話そう。 世界は深刻なエネルギー危機に見舞われている。石油生産は過度に抑制され、限られた人々の手にしか渡らない。ガソリン車はほぼ絶滅する――そんなものを乗りまわすのは特権的な富裕層だけだ。黒いガスを勇ましく吐き出…

闇夜(やみよる)7

あーちゃん、かわいいよあーちゃん。 カチ。吉沢明歩「ハイパー×ギリギリモザイク ものすごい顔射」を見終えてメガネのチャンネルを変える。パンツを履く。やはりAVは21世紀初頭に限るぜ。愛のないセックスにより広がる致死性の感染症「LOVELESS」が猛威を…

闇夜(やみよる)6

「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」爆破事件で火が点いた一連のバットマン騒動のせいであれだけクラスで愛されていた戒名平和乃愛波動卍線洋介こと窪塚君のことなんて皆すっかりあっさり忘れてしまったのに存在感ゼロのキクリンこと菊池凛子のお見舞いに行こう…

闇夜(やみよる)5

「君たちは、初めての戦後生まれの高校生だ」 新学期が始まって初めて1年9組の教壇に立ったスドウは、このような言葉から授業をはじめようとした――君たちは、今年15歳。つまり、私たちのような年長の人からすれば、君たちと出会うことは初めてあの戦争を…

闇夜(やみよる)4

羽鳥隆之の父である朴芳雨は、国連軍による平壌制圧と続く治安維持作戦の際、駐留する兵士を相手に街に立つ男娼になる。12歳のことだった。現地入りした兵士の9割以上が、ナイジェリア、コソボ、あるいはソマリア出身の傭兵であり、朴は不潔な黒人に乱暴に…

闇夜(やみよる)3

バイクチーム「婆逝句麺」のキクリンこと菊池凛子が鳥取駅南口のトスク駐車場で盗んだヤマハを駆って福井県の西ナントカってところまでツーリングに行ったきり行方不明になったのを私はガソリンスタンド「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」の店長から教えられた。…

闇夜(やみよる)2

朝からレンの机にはジャンクなお菓子が山のように積まれてあって、私は「また何かあったんだな」って直感した。レンには何かイライラするようなことがあると、コンビニの棚にあるお菓子を丸ごと買い占めて一気に食べるっていう悪いクセがある。そのおかげで…

闇夜(やみよる)1

Time is never time at all You can never ever leave without leaving a piece of youth And our lives are forever changed We will never be the same The more you change the less you feel (Smashins Pumpkins - Tonight, Tonight) 窪塚君が南棟の4階…