闇夜(やみよる) 目次

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闇夜(やみよる)45

ねえ 綾香 あたし達の出会いを覚えてる? あたしは運命とか かなり信じちゃうタチだから これはやっぱり運命だと思う 笑ってもいいよ あたし達の出会いを覚えてる? 鳥取の町はいつの間にか、バットマンが暴れ回るようになっていて、電車が走ったり止まった…

闇夜(やみよる)44

「移動だ、移動がはじまったのだ」と男はポケットを落ち葉でいっぱいにしながら歩道橋の下を絶え間なく走る長距離トラックに向かって呟いた。福島県と山形県をつないだ新国道13号を移動する大きな車体が男の濁った目には、アフリカのサバンナを駆けるヌー…

闇夜(やみよる)43

絵里子が十六歳で初めて男を知った次の日の朝、彼女自身が後に「トライブ・コールド・クエスト」と名づける能力が覚醒した。まっ黄色な寂寥の中、目を覚まし、シャワーを浴び、下着を履き、電子レンジで暖めたレトルトのコーンスープに口をつけた瞬間に、舌…

闇夜(やみよる)42

暴力は感染する。ひとつの暴力が新たな暴力を呼び起こす。鳥取市郊外で薪割りをしていた田中邦衛は己の身体のなか、意識の底で沈黙していた悪の蘇生を知った。内蔵の内側でうごめきを感じた。俺は…俺は…。田中邦衛は頭を抱え、両の手で顔を被う。赤子のよう…

闇夜(やみよる)41

破壊は常に創造とともにある。弁証法において、否定が常に綜合と手を結んでいるように。東京を飲みつくそうと言う破壊の焔が7日間燃え続ける一方で、北日本の中心である宮城県仙台市では新しい巨大建築物の建造が進められていた。20世紀の後半に北朝鮮で…

闇夜(やみよる)40

犬川隼人は、女を物色している。それは毎日続いた。男の、日課だった。男は東京メトロ渋谷駅銀座線ホームと男子トイレを清掃する仕事をしている。自分を恥じている。本当の俺ではない、と思う。本当の俺を発揮せねば、と思う。本当の俺は世界を動かしうる存…

闇夜(やみよる)39

ある朝、MJが子供たちに囲まれた楽園から目をさますと、自分が大きな装置の中で一人の白人に変わっているのを発見した。彼は鎧のように堅い床に背をつけ、あおむけに横たわっていた。鼻の横に幾本かの冷たい筋が入っていて、顎のラインは鋭さを増している。…

闇夜(やみよる)38

「歴史?」 シャマランは聞き返した。あまりにも大袈裟で、概念的過ぎる名を名乗った男の神経が正常なものかどうか測りかねたのだ。 「そう。歴史だ」 男は繰返した。 「気になるか?」 男の問いかけに対して、シャマランは黙ってうなずいた。 「じゃあ、少…

闇夜(やみよる)37

オレはツッパリヨシフミ。つっぱってる。オレはどこかわからない谷の中で不思議な女とあった。 だが、次の瞬間、オレはたそがれた小汚いバーの片隅のテーブルに腰掛けていた。向かいにはさっきの女。美人だが、よく見ると若干あごがしゃくれている気がしない…

闇夜(やみよる)36

黄昏のなか一人の男が鳥取砂丘をなぞるように走る旧国道9号線のガードレールに寄りかかっている。男はアスファルトで乱雑なギンガムチェックを刻まれた車道に向かって忌々しさを振り払うかのように唾を吐いた。「くそっ」。降り立ったばかりの鳥取の日本海…

闇夜(やみよる)35

28種のスパイスをオリジナルにブレンドして作った看板メニュー「ひよこ豆と鶏肉のカレー」は自家製ナンと一緒に食べると絶品!トマトとたまねぎをベースに作っているので、辛いものが苦手な方にもオススメ!と鳥取市内のOLの間で評判だったカレー・ショ…

闇夜(やみよる)34

鳥取第一体育館の中央に造られた特設リングにバットマンが舞い降りる。オレはすっかり目が点だったが、バットマンとレンの様子を冷静に見つめようとしていた。 「TAIMAHHHHHHHHHHH!!!」 叫び声とともに客席からサングラスの大男が立ち上がる。いや、サングラ…

闇夜(やみよる)33

何度呼び鈴を鳴らしても羽鳥の出てくる様子がなかったので私はミドルキックを羽鳥の部屋の分厚い扉へお見舞いした。私はまだ鳥取市内のすべてを掌握していたし、羽鳥のケータイのGPSがこの部屋を指し示しているのをもわかっていたから自信を込めてキック。扉…

闇夜(やみよる)32

自作自演の知事誘拐事件に対する北日本の暴力による抗議行動が始まった途端、政府の要人たちは次々と東京を離れていった。総理大臣、木村拓哉も例外ではない。というか私の記憶によれば、あのとき一番最初に首都を離れたのは、彼だったと思う。私たちはあの…

闇夜(やみよる)31

オレはツッパリヨシヅミ、つっぱってる。本名は斉藤智文なんだけど、みんながヨシヅミって呼ぶのは石原良純ってのに顔がそっくりだかららしい。オレはそのヨシヅミは知らないが、ヨシヅミって呼ばれるのは嫌いじゃなかった。だからヨシヅミだと名乗る。名は…

闇夜(やみよる)30

羽鳥が失踪したけれど手がかりがないので私はどーんと構えることにした。だいたいキクリンを探すように頼んだのになんで失踪するわけ?ちょーマジムカつく。私はV6(ぶいろく)の岡田の粗末なモノを忘れるためにパパに無理矢理に入会させられたダンス教室「…

闇夜(やみよる)29

南北会談の舞台として設定されたホテル・ネオ・オークラの「麻生の間」に各地からメディア関係者が詰めかけていた。会談を終えた南北の代表者たちがここで会見を行う予定だったのだ。1年と2週間前の北日本連邦の独立宣言、および宣戦布告ぶりに全世界の目…

闇夜(やみよる)28

おはよう。 こんにちは。 おやすみ。 さようなら。 ありがとう。 それは、ただの挨拶。Just a 挨拶。誰でもする挨拶。愛する人に、友達に、好きでもない人に、送る言葉。声をかけるその行為そのものによって、それぞれの宇宙を流れる星は一瞬でもお互いを認…

闇夜(やみよる)27

角界を追われたアウトロー力士が繰り広げる大麻相撲中継が終わったので、私は電脳空間「スプロール」に没入、テレビをオフにした。地デジver3.0が呼応して光を失うのをリアルの網膜で見る。再び没入。ミュージックボックスからお気に入りの曲を取り出し電脳…

闇夜(やみよる)26

1週間もあればこんな争いは収まるだろう、北日本連邦などという馬鹿げた妄想染みた国など消え去ってしまうだろう――という予想はすべて裏切られ、南北に別れた日本列島における紛争は長期戦の様相を見せ始めていた。しかし、圧倒的に優勢だったのは世界から…

闇夜(やみよる)25

「迎合界isファッキンバビロンの呪縛…どうしてこんなブルシットになっちまいやがったんだぜ!?」 窪塚洋介はひとりごちた。こないだまでは、うまく行っていた。出席回数が足りず留年してもう一度一年生をやらされると聞くまでは。そのこと自体はどうでも良…

闇夜(やみよる)24

You dont know how you got here You just know you want out Believing in yourself Almost as much as you doubt Youre a big smash You wear it like a rash Star Oh no, dont be shy Theres a crowd to cry Hold me, thrill me, kiss me, kill me (U2-Ho…

闇夜(やみよる)23

Come writers and critics who prophesize with your pen And keep your eyes wide the chance won't come again And don't speak too soon for the wheel's still in spin And there's no tellin' who that it's namin' For the loser now will be later to…

闇夜(やみよる)22

ピンポーン。ピンポピンポピンポーン。ああ、ああ、連打しなくてもいいよ。今、開けるから。ガチャっと重いドアを開ける。父さんが訪問販売でだまされて買った「原爆の炎を防ぐ鋼鉄の玄関ドア」を開ける。彼女は本当にそこにいたのだった。僕を、僕を救って…

闇夜(やみよる)21

ニコラスが死んだ次の日からキクリンは何度めかの登校拒否になった。たくさん尋ねたいこともあったので、陰毛はボーボーと繁っているくせにケータイを持っていないキクリンのアパートを何回か訪ねたけれどいつも留守だった。こないだ市内で暴れ回ってた変態…

闇夜(やみよる)20

全世界に向けて「北日本連邦」の正式な独立宣言をおこなうはずのテレビ放送は予告していたとおりの時間に始められた。時刻は午後12時ちょうど。それはちょうど前日に電波ジャックによる独立宣言がおこなわれたのと同時刻だった。 最初に画面へと映し出され…

闇夜(やみよる)19

ユイファは、今日が自分の40歳の誕生日であることに夕飯の支度をしながら気づいた。ふと、自分の半生を振り返る。日本に来てから20年、何もなかった。ただ我慢をするだけの味気のない日々だった。ユイファは深いため息を吐いた。最近は何もやる気がしないし…

闇夜(やみよる)18

快感にふやけるぐらいに浸りながら夕空に向け機関銃をババババババと乱射気味に威嚇射撃する私を携帯のバイブが邪魔をした。私は仕方なしに電話をとって液晶を見た。「非通知」 つまらない話だったら速攻切ろう。だって乱射したいんだもの。「もしもし…」無…

闇夜(やみよる)17

福島県桧枝岐村から日本の全土に向けて飛ばされた電波が止むと、お茶の間にはそれまで映っていた番組が戻ってきた――ある家庭ではCGで再現された森田一義の『笑っていいとも』が、ある家庭では何十年も前に体の一部を機械化することによって人間機械と化し…