闇夜(やみよる)1

Time is never time at all
You can never ever leave without leaving a piece of youth
And our lives are forever changed
We will never be the same
The more you change the less you feel
(Smashins Pumpkins - Tonight, Tonight)

 窪塚君が南棟の4階にある1年9組のベランダから校舎裏の駐車場に向かって飛び降りたのは、入学式から4日後の出来事だった。ミキと中学のときから付き合ってるシノブは、窪塚君と席が前後になった(シノブの苗字は木山だから、50音順で窪塚君のひとつ前なんだそう)ので、窪塚君と挨拶くらいは交わす仲だったらしいのだけれど、窪塚君は窓に向かって全力で走り出す前にシノブに向かって「誰も見たことないような世界はもう目の前よ!つまり人呼んでザイオンに駆けてく俺らはライオン!」と叫んだそうだ。シノブが面食らって大声で「そのとおり!」と返した途端、窪塚君は「ヤーマン!」って言いながら、走り出したんだって。
 理事長のランボルギーニのフロントガラスを割りボンネットを潰した窪塚君は即死だったらしい。昼休みの学校は当然のように色めきだった。私は何が起こったのかとか、ぜんぜん知らなかったけど、みんなが走り出したんでミキと一緒にとりあえず走り出したんだ。なんかパーティーや文化祭みたいなイベント感覚があって、興奮した。それで、何も知らないまま駐車場まで走っていって、窪塚君の死体を目のあたりにしたってわけ。窪塚君は血が体中のいろんなところから垂れてて、鼻から黄色かったり赤黒かったりするドロドロした何かをはみ出させたまま、笑ったような顔で死んでいた。私は窪塚君と目が合ったような気がして、すごく気持ち悪かったけど、ミキが失神してしまったんで、それどころじゃなかった。ミキは直立したまま、まず両膝をつき、それからまっすぐうつぶせにコンクリートに倒れて鼻を骨折した。
 私は倒れたミキを介抱するために屈んだので気づいた。羽鳥隆之−林業課(通称スポーツバ課)の1年で中学ラグビーですごい有名だったらしい−が、股間を勃起させていることに。それは窪塚君を見て勃起したのだろうか。わかんない。
 私たちの街にバットマンが現れるようになったのは、窪塚君が死んだその日の夜からだった。