闇夜(やみよる)37

 オレはツッパリヨシフミ。つっぱってる。オレはどこかわからない谷の中で不思議な女とあった。
 だが、次の瞬間、オレはたそがれた小汚いバーの片隅のテーブルに腰掛けていた。向かいにはさっきの女。美人だが、よく見ると若干あごがしゃくれている気がしないでもなかった。オレたちが腰掛けている背の高い鉄製のイスには木の背もたれと腰掛があり、オレのケツに冷たさを感じさせる。オレたちは木製の丸いテーブルに肘をつけて向かい合っていた。テーブルの上には、誰かのピザの食べカスだろうかチーズのようなものやら酒のあとやらくっついていた。だが、その汚さはオレを少し落ち着かせてくれてもいた。オレはまったく状況が把握できていないにも関わらず、リラックスした気分になり、その女のことも少し忘れかけていた。
「私は今井絵理子
 女が突然しゃべりだして、オレはぎょっとした。
「え?君は…ここはいったい?」
「ここは苫小牧の小さなバー」
「トマコマイ…」
「そう。20世紀の苫小牧。ほらテレビを見てみて」
 はっと振り向くと博物館でしか見たことのないブラウン管のテレビが天井の隅の小さく組まれた櫓のような場所に置かれていた。そこではアディダスのジャージを着たブサイクな白人が歌っている。

「お前がワシのワンダーウォールやで〜」

 なんだこのダサいのは…。
「これが20世紀の文化よ。セカンドインパクトは知ってるよね?」
「ああ。歴史の授業で」
「今日はセカンドインパクトの前日。隣の席の若い外国人の男。華奢で透明で美しい姿のあの男、湿った目の男。セカンドインパクトが彼を変えるわ。あなたに彼を見せたかったの。私と融合しても彼を覚えておいてね。私たちの記憶がどうなるか、私にもよくわからないの」
「融合?」
「アクターズ・プロジェクト。私たちSPEEDはプロトタイプだったの。沖縄からDr.ワイリーの軍団に拉致されて改造された。でも綾香たちはまったくの無から作られた。まだ彼女達はこの時間には存在していないけど。ヒトエは能力が開花せずにアメリカで主婦になったけど、私とヒロとタカコは綾香たちを守ったわ。でも私たちも綾香ものっちもゆかも死んでしまったの」
「何の話をしているんだ…」
「でも綾香の特性は女神転生。それはエデンが作られた際に神の相対因果律で定められているの。綾香は何度でも転生を繰り返し、チャゲアスのメロディで覚醒し、生き続ける。あなたの時代にも綾香は生きている。彼女の存在はサードインパクトを引き起こしかねない。誰でも良かったの。あなたはただキレイな眼をしてそこにいた。だからアナタを選んだ。私のアストラル・バディは時空を超えることができる。ただしミノフスキー粒子の磁場の干渉を強くうけてしまい、現実世界で安定した実体化を果たすには依り代が必要なの」
「ヨリシロ…それがオレ」
「そう…時間がないわ。私はあなたと融合し、あなたの時間で綾香を見守り、綾香が堕天しそうなら場合によっては綾香を殺して次世代の運命に繋ぐ。はじめるわ」
 女は光になり、そして光は空気に溶けるように拡散しはじめた。ふいに光の粒子たちが意志をもったようにオレの方へ一気に流れ込む。オレの脊髄から陰茎へと快感が貫いていく。BODY&SOUL…!