闇夜(やみよる)30

 羽鳥が失踪したけれど手がかりがないので私はどーんと構えることにした。だいたいキクリンを探すように頼んだのになんで失踪するわけ?ちょーマジムカつく。私はV6(ぶいろく)の岡田の粗末なモノを忘れるためにパパに無理矢理に入会させられたダンス教室「つきかげ」に顔を出した。準備運動をして身体を温める。それから手足に気合を入れて動かす。wiiフィットで鍛えぬいた足を振り上げる。アン・ドゥ・トロワ。アン・ドゥ・トロワ。アン・ドゥ・トロワ。アン・ドウ・トリャー!アン・ドウ・トリャー!私より先に教室に来ていたエリカとアユミが不細工な顔で私の華麗な舞いに我を忘れているのを私は感じる。ふふふふ。まあ私から見てもエリカのフラメンコは顔と同じで学校で飼ってる鶏が飛び跳ねるみたいな不細工な踊りだし、アユミは努力しすぎな感じが見てて暑苦しいのよね。申し訳ないけれど。まあ、とくと見たまえダンス生徒諸君!アンドウトリャー!私の手刀がマス大山クラスの超高速で虚空を切り裂く。トリャー!

 私はここに来る前にちょっと自分の力を試してみた。私には瞬間的に移動する力がある。これ、移動っていうのかな。ぴゅーっと移動するのとはちょっと違っていて、パッと風景が切り替わる感じ。移動する距離が1メートルくらいしかないし、パッパッパッーっと連続して移動するともんのすごい疲れるからあんまりやりたくないけれども。


 「そんな動きで妖精パックになれると思って?」


 先生の出現。いつも長い髪で顔の半分を隠している月影先生。私は先生に会うたびに不細工は可哀想だなって思う。だって顔の半分を隠さなきゃいけないんだよ?私は先生が苦手。なにかにとりつかれてるみたいな顔しているんだもん。妖精パック?なにそれ?意味わかんないし。


 「おやりなさい!」月影先生のヒステリックな号令。


 あれ?いつの間にか私の周りを六気筒エンジンをこよなく愛するバイクチームV6のメンバーが6人ずららっと取り囲んでいた。岡田SPスペルマンも包帯グルグルのミイラ男状態でWAのパーツになっている。6人がWAになって、私が中心。V6は突然手に持ったゴムボールを投げ合い始めた。私のナイスバディに当たる。イタ!痛いって!イタタ。痛いよ!私は当たらないようによけ始める。いつからかわからないけれど教室にはノリのいい音楽が流れていた。懐かしい。どこかで聴いたことがあるメロディー。私は…この音楽を…

諦めないで大切な少しの意地と君よダーリン
刺激的ほら素敵見える世界がきらめくわ
手探りの私にも少し分かる気がしてるんだ
やわらかな君のタイミング
ずるいでしょchu chu chu
love the world

 曲の終わり。私はすべてのボールを完璧に避けれるようになっていた。最後のボールの描くアーチを私はブリッジでかわした。「それよ。そのイナバウアーを忘れないで!」月影先生が叫んでいるとき私は別の世界にいた。先生の大声がずっと遠い世界の出来事みたい。私は。私は。鳥取のすべてを受信していた。音声。有線。無線。公開。非公開。すべての人の繋がりを俯瞰するようにみていた。「表面温度、3000度を維持」「…て」「第6衛星回線を再接続。目標を自動追尾中」「…けて…」「アッコ沢尻エリカに不快感」「…すけて…」「電磁波放電率、0.7%上昇」「…けて…」「第三光学観測所より入電。目標周辺に異常磁場を観測」「目がピカピカ」「全超伝導超々高圧最終変圧器集団の開閉チェック完了。問題なし」「助けてー!」羽鳥!私は羽鳥の声を聞いた。耳ではなく身体で。羽鳥は羽鳥の部屋にいる。なにか変容に襲われて。羽鳥はいる。泣いている。情けない声で助けを求めている。イナバウアーから直立姿勢。ばばーっと走り教室を飛び出した。携帯がちりちりと鳴る。背中で月影先生が「紅天女!」といっているのを、私は聞かない。私は別のものを聞いた。声を。私は携帯を取り出す。液晶が猛スピードを産み出す振動で揺れ幾重になり文字が読み取れない。

 馬鹿っぽい声がいう。


 「いっしょに羽鳥を奪還するかあ」

 「カンチ?」