闇夜(やみよる)24

You dont know how you got here
You just know you want out
Believing in yourself
Almost as much as you doubt
Youre a big smash
You wear it like a rash
Star
Oh no, dont be shy
Theres a crowd to cry
Hold me, thrill me, kiss me, kill me
(U2-Hold Me, Thrill Me, Kiss Me, Kill Me)

 シノブのメールには大仏魂の画像が添付されていた。大仏魂。鳥取城址にそそりたつヒゲ付きのインチキ大仏。鳥取の恥。馬鹿っぽくて見るのもイヤなのにそれでもそこへと向かう私は友達思い。エンジン音ズババババババババババ。「こんなこともあろうかと思って」とか言って工作部長の真田君が勝手にリミッターカットしてくれた原付はらしくない重低音を響かせて加速、時速八十キロを軽くパスして鳥取市内を突き抜ける。はためくミニスカート正義のしるし。ズバババババ。ズバババババパラリラパラリラ。鳥取城址を息切れなしで登りきる。やるじゃん真田君眉毛ないけど誉めてつかわす。

 「ショータイム!」大仏魂の足元で汚いメイクをした男が叫んでる。
 「俺はジョーカー。お前の大事な大事なお友達ぉ誘拐ぃしたのはぁぁさらったのはぁぁ誰でもなぃぃこの俺だぁ」 叫び終えると顔をひきつらせて嫌な感じの笑い。キモい。私は加速してジョーカーに突っ込む。
 「俺様を殺せるのかぁお前にぃ。お前と俺は表と裏。お前と俺は同じ種族。ファミリーみたいなもんだ。お前に俺は殺せない。家族をやれるのか?なぁやれるのか?なあ轢けるのかお前にぃいいい!いい眼だ。怒りと暴力に満ちたいい眼だ。そっくりじゃねええかよおおおおお前と俺はぁ。轢けるもんなら轢いてみやがれええ」

 キモーい。やっつけたーい。と思いつつブレーキを引く蟻一匹殺せないいい子なわたくし。スカッ。スカッ。ありゃ。ブレーキが。スカッ。あれ?真田君眉毛と一緒にブレーキも外しちゃったのかな「こんなこともあろうかと思って」、まあこれなら事故ってことでおさまるからいいやと私はジョーカーを轢く。ずずどーん。「痛!普通ひかねえっ」ジョーカーはズザーッとすっ飛んでいった。私はタイヤを焦がしながらドリフトして原付を急停止させ、担いできたフェンダームスタングを手に仰向けに倒れてぴくりとも動かないジョーカーの元に歩いていった。

 「シノブは?」キズだらけの顔からは返事がない。「シノブは?」返事がないので触るのもいやだけど脇腹に蹴りを入れる。「ギャハハハハ」ジョーカーが口を開かないで喋う。もういちど蹴りを入れるとジョーカーの左手からジョーカー人形が出てきた。ギャハハハハ。手に取った人形が笑う。人形には背中にボタンがあって「ここを押してねペコリーノ!」と吹き出しが付いている。とりあえず押す。ポチ。倒れているジョーカーの目がクワっと開いた。

 「痛えなあ、俺をキズつけていいわけ?ゴホッ。ゲフッ。レィディよう。ジョーカー様に選ばれしラッキーなお友達の運命は俺様の手のなかにあるんだぜぇ。」ジョーカーは血を吐きながらヨタヨタと立ち上がり首を傾げ私の15センチ先でニヤリと笑った。

 「シノブはどこなの?」
 「シノブぅ?そいつが激ラッキーなお友達の名前かぁ。シノブぅ。シノブぅ。ラッキーメーンシノブぅブゥブゥ!ありゃ?」ジョーカーはわざとらしく悲しい顔をした。いちいちキモい。
 「レィディ。そりゃないそりゃあないぜぇ。今回当選した激ラッキーなお友達は二人だぜぇ」
 「二人?」シノブだけじゃないのー!
 「リッスン!」ジョーカーはわざとらしく手を耳に手を当ててウインクをした。何かが聞こえる。歌?
 「うぅおうぉおさぉWAになっへおほろぅらんりゃりゃらんりゃんりゃん」
 上だ。大仏魂のヒゲの両端に何かがぶら下がっている。目を凝らすと突然ぶら下がっているものが見えるようになった。ヒゲの両端には亀甲縛りっていうの?パパが隠れて読んでいる雑誌に載ってた縛り方をされた人間がぶら下げられ夜風に揺れていた。左端は制服姿のシノブだ。気絶してる。右端は、バイクチームV6の岡田SP(スペルマン)だった。下半身裸でうぅおうぉおさぉわぁになっへおほろぅと歌ってる。涙と鼻水と涎で自慢の顔面ボロボロ、あーオシッコまでじょろじょろ漏らし出しちゃった。憐れスペルマン。

 「あのさージョーカー」
 「うぃ」
 「右の奴友達じゃないんだけど」
 「ギャハハハハ。最高だぁレィディ。ジョーカーにジョークかよ。最高だよレィディ。あいつのケツの穴にダイナマイト突っ込むのに俺様がどれだけ苦労したと思うんだ。えっ?えっ?」
シノブは口に、岡田スペルマンはお尻にそれぞれダイナマイトが突き刺さっていた。岡田スペルマンの歌が止まった。
 「生きていたかったらドンスタッミュージックだと言ったろう!小便野郎があ」ジョーカーはぶちギレて叫び、また悲しげな顔をして早口で囁いた。「起爆装置が起動した。爆発する爆発するぜ。どかーんとド派手になぁ。花火見物と洒落込もうぜレィディ。君といた夏は遠い夢のよーうー。空に消えてった打ち上げ花火ー。花火。ビビッビ。花火知ってるだろう。HA-NA-BI。レイディは映画みないのか?キタノの古い映画。いい映画だぜHA-NA-BI。生き抜けたら観るといいぜ。その昔この国じゃ花火があがるたびにタマヤーと声をあげたらしいぜ。アイドルもお相撲さんも皆さん大好きなタイマー!じゃないぜ。タマヤー!だぜ。タマヤー!」
「なぬー!」
「俺様は最強に優しい。時間を残してある。30秒の大盤振る舞い。レィディレィディレーィディならどちらから助ける?タマヤー!」

 ジョーカーは悲しげな顔で「大事なシノブぅ君!かあ」と裏声で言い、それから笑顔で「それともファック岡田かあ!ギャハハハハ!」と叫んだ。「どちらを選ぶのはレィディお前…」言い終える前に私はフェンダーで思い切りジョーカーの右側頭部をぶん殴りグボッと鈍い音を道連れに頭蓋骨を割った。それから大仏魂に掛けられた梯子をガシガシ登った。ガシガシ。うわーこれじゃ間に合わないよ。どーしよー!ピキーン。「あなたなら出来るわ」女の子の声がした。「三人あわせてパフュームです!」また違う女の子の声。私は不思議と跳べる気がした。跳べる。ウリリリリー!梯子の途中からヒゲの左側に向かって飛び出した。跳べた!パパパパッとパラパラ漫画みたいに一メートルごとに空間を移動してる感じ。瞬間移動ていうのこれ?

 ヒゲの左端に降り立った私はシノブをぶら下げているロープを手繰り寄せダイナマイトを口から抜き取り逃げようとしているジョーカーに向けて投げ付けた。ジョーカーの背中と岡田スペルマンのアナルで同時に真っ白な閃光が走った。スペルマンの身体はアナルから噴射する爆風でロープを引きちぎりミサイルのようになって地面に首から突き刺さった。大仏魂の付近でオレンジ色の2つの火球が膨らみ私はシノブをだきしめて衝撃波から護った。私はこの光景を見たことがある気がした。またさっきの女の子たちの声が私の耳元で囁く。「ようやくお目覚めね」「おはよう」私は振り返ったけれど初秋の風が吹いているだけだった。

 ジョーカーの遺体は見つからなかった。カンチからの電話で羽鳥の失踪を知ったのは、岡田スペルマンのアナルが学校での噂通り蛇兄さんによる調教で鍛えに鍛え抜かれて獲得した鋼鉄の強靭さをもってダイナマイトの爆発に耐え難きを耐え忍び難きを忍んで火傷で済んでしまったのを目にしたときだ。
「あ、あれ?」シノブが目覚める。
「おはよシノブ。ちょっとこいつを地面から引き抜くの手伝って」
私にはよくわからない何か不思議な力がある。何かが私の胸のなかでキュンキュンと鳴っているのが私には聞こえた。